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結城真一郎さん「少年ABCの完璧な選択」 友情や家族、「普遍」に挑む新境地

結城真一郎さん

 マッチングアプリやリモート飲み会といった現代的な道具立てを使った本格ミステリー「#真相をお話しします」で名をはせた結城真一郎さんの新刊「少年ABCの完璧な選択」(新潮社)は、法律の意外な抜け穴に端を発した物語だ。ほの暗さをたたえた青春群像と、劇場型誘拐犯罪のサスペンス、息詰まる頭脳戦による謎解きが相まった、新境地と言える一編になっている。

 「過去から連綿と続いてきた法律の穴を主軸に、友情や家族といった普遍的なテーマを書きたかった。『真相』とは違った顔を見せたいというのが自分に課したミッションでしたね」

 冒頭、蓮沼乃愛(のあ)なる女性が出勤途中に拉致される。やがて誘拐犯からSNSを通じたメッセージが発信される。〈真犯人が名乗り出なければ、諸君らの大切な方舟(はこぶね)ちゃんの命を頂戴(ちょうだい)する〉。犯人が言及したのは、15年前に中学2年の3少年が関わった殺人事件だった。

 第一部では、その2010年の事件が語られる。家庭に複雑な事情を抱えていた翔吾、鉄平、大樹の3少年は幼なじみの乃愛が母親らから虐待を受けていることを知る。3人は乃愛を救うために立ち上がるが、思わぬいきさつから母親と交際相手を死に至らしめてしまう。3人は策を弄(ろう)し、法律の死角を突く供述で無罪放免を勝ち取る。〈肝心なのは、誰も供述を翻さないこと〉と誓うことで。

 思春期ならではの未熟でゆがんだ正義感を発揮する3人ははた目に見ても危なっかしい。「自分の中学時代を振り返っても、どこか視野の狭い無敵感みたいなものがあって、友達と一緒なら怖いもの知らずで突っ走れた。そんな友情が時の流れの中でどう変わっていくのかを書きたかった」

 第二部は3人が15年ぶりに鉄平の実家の定食屋に集まるところから始まる。警察の捜査が進むものの、誘拐犯は3時間ごとに3人の個人情報を少しずつ暴露していく。このままでは現在の生活が破綻(はたん)するのだが、3人は過去の誓いを簡単には破れないジレンマを抱えていた。

 「たとえば友人の起業に誘われた際、学生や独身なら勢いで参加できても、安定した企業に勤める人や、家庭がある人は悩む。本作は犯罪というハードな話ですが、意外と似たようなジレンマは周りにあるのかなと思います」

 3人が相対するのは誘拐犯だけではない。警察もまた15年前の真犯人を暴こうと3人を揺さぶる。犯人が追い詰められていく倒叙ミステリー風の趣をまといながら、思春期の始まりと終わりを鮮やかに描いた物語は、意外な真相と共に幕を閉じる。

 「3人がなんとか逃げ切ってほしいという、読まれた方からの感想がすごく多くて。事件を解決するのがミステリーなのに、そんな思いを抱いてもらったことに、手応えを感じています」(野波健祐)=朝日新聞2026年9月2日掲載