天気のことわざ 先人の知恵、五感も使い命を守る 武田康男
酷暑日(最高気温40度以上の日)が定められ、この夏も各地で観測された。近年は地球温暖化で日本の平均気温が上がっていて、激しい雨が降ることも多くなり、日々の天気予報を気にする人が多いだろう。
「令和8年8月千葉豪雨」については、これほどの豪雨災害が起こることは誰も予想しておらず、平穏な生活が突然パニックになった。私も千葉県で体験したが、激しい雷とともに猛烈な雨が降り出し、各地で排水能力を超えて浸水が始まった。道路は渋滞し、帰宅困難になった人も多かった。北陸でも豪雨被害が続いた。
日本人は昔から天気に関心があり、挨拶(あいさつ)の際にもよく使われる。天気予報がない時代は、それぞれの場所で観天望気がなされていた。空の雲や光を見て、空気の湿り気や風を感じ、動植物の様子を観察し、この先の天候を予想した。天気のことわざは、そうした知恵をわかりやすく端的に言い表したものである。
猪熊隆之著『天気のことわざは本当に当たるのか考えてみた』(ベレ出版・1870円)は、さまざまな天気のことわざについて、言い伝えられた経緯を示し、信憑(しんぴょう)性について検証した本だ。科学的な根拠に基づき信用できるものと、迷信に過ぎないものを分けている。
「朝焼けは雨、夕焼けは晴れ」や「朝虹は雨、夕虹は晴れ」ということわざは、日本の天気が西から変わりやすいことと関係がある。「雷三日」は、上空に寒気がやってくると、3日間程度天気が不安定になりやすいからである。「暑さ寒さも彼岸まで」は、地域で異なるが、最近はずれを感じる地方もある。動物に関しての「猫が顔を洗うと雨」や「クモが巣を張れば雨は降らない」はほぼ根拠がないという。鳥取県の「大山がくっきり見えたら翌日は悪天」や新潟県村上市の「西が曇ると雨、東が曇ると風」など、地域特有のことわざは精度が高いようだ。さらに著者オリジナルのことわざが紹介されていて、「レンズ雲は強風の前兆」などは知っていると役立つ。
弓木春奈著『ことわざに学ぶ 気象災害から命を守る知恵』(河出書房新社・1595円)は、テレビやラジオで活躍している気象予報士の本だ。「五感を鋭くして、天災地変をいち早く察知し、急変する天気の予兆をつかむ術」を、ことわざを通して学ぼうとしている。津波の時に自分の身は自分で守れ!という「津波てんでんこ」に注目し、レベル5の特別警報などの際の“命の危険から逃れる知恵”をさまざまなことわざで説明している。
気象予報士たちは、日々の天気に関心が強い。菊池真以著『366日 天気のはなし』(玄光社・2420円)は、月ごと日ごとのさまざまなテーマで、天気の話題を美しい写真とともに解説している。天気に関してこれほど膨大な内容をそろえた菊池さんの感性がすばらしい。写真家としての撮影技術もある。
春の嵐、夏から秋の台風、冬の季節風など、日本は気象災害の起こりやすい場所にある。天気予報は詳しくなったが、局地的大雨(ゲリラ雷雨)や竜巻などの突風をもたらす積乱雲の発生予想は難しく、スマートフォンなどで雨雲レーダーなどを確認するとともに、空の様子や気温や風などの変化を自ら察知することも必要である。前述の千葉豪雨の前には、異常な湿り気と雲の成長の早さと雷の激しさを私は感じた。
天気は日々の暮らしに潤いをもたらしている。天気のことわざはそうした日本人の感性が生み出したすばらしい知恵であり、現在でも実用的なものが多い。自ら新しい天気のことわざを生み出すのもよいだろう。=朝日新聞2026年9月5日掲載