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〈星〉を継ぐもの 切り口の奥に広がる深さ、今も 池澤春菜

作家の星新一。1926年9月6日生まれで今年、生誕100年を迎えた。97年没=85年撮影

 星新一は生涯に一〇〇〇以上のショートショートを書いたという。ショートショートとは掌編とも呼ばれる、ごく短い短編のことだ。

 作家の都筑道夫はこんな趣旨の言葉を残した。「長編小説は1本の長い棒、短編小説はそれを短く切った棒、ショートショートとはその切り口を真上から眺めた物、その奥にある深さを想像させる切り口」。見えないからこそ、想像する。わずか数行から数ページのショートショートが残す余韻は時に大長編より深い。

通底する眼差し

 この欄では三冊の本を取りあげることになっているが、実は星新一の一冊を選ぶのが一番難しかった。本単位ではなく、作品単位なら選びやすいのだが……呻吟(しんぎん)しながら、『ようこそ地球さん』(新潮文庫・935円)をあげようと思う。

 収録された四二作はいずれも甲乙つけがたいが、個人的に好きなのは「たのしみ」と「処刑」。牧歌的な田舎に一人の男がやってくることから始まる「たのしみ」は、消費する物とされるものの反転、そしてそれは読んでいるわたしたちにも起こる、という星新一ならではの捻(ひね)りのきいた一編だ。SFではない、派手さもない、しかし何とも言えない後味が残る。「処刑」、罪を犯した男が処刑地である惑星に送られる。男は銀色の玉を持っている。喉(のど)が渇いたら玉についているボタンを押せばいい、水が出てくる。しかし玉はある確率で自爆する。緩やかな、誰の手も汚さない処刑。どちらも、正に切り口の奥を覗(のぞ)き込ませるような傑作だと思う。

 二冊目としてあげたいのは最相葉月著『星新一 一〇〇一話をつくった人』(新潮文庫・上737円、下781円)。星製薬の跡取りとして生まれた親一(本名)が、戦争と終戦を経験し、日本SF界の礎をどのように作りあげてきたか、どう星新一になっていったのか。そして何より、星作品に通底する眼差(まなざ)しが何に由来するものかを、丁寧な取材と膨大な資料から読み解いている。

終生もがき続け

 星新一は自身の書くものについて「気まぐれ、残酷、ナンセンスがかったユーモア、ちょっと詩的まがい、なげやりなところ、風刺、寓話(ぐうわ)的なところ」が含まれている、と随筆で語っている。これらの闊達(かったつ)な筆は、星新一の穏やかで飄々(ひょうひょう)とした性格、悠揚たる人生から来るかと思いきや、そうではなかった。何度も裏切られ、戦争に苦しみ、人を信じられず、自分自身をも疑った。有名になったことも星を苦しめた。終生もがき続け、書くことに追い詰められながら一歩一歩歩いて行った。「星のような」言葉たちが、どのように空に刻みつけられたか。この評伝を読んでから、是非もう一度星のショートショートに戻って欲しい。

 最後の一冊は、〈星〉を継ぐもの。日本SF作家クラブが毎年出しているテーマアンソロジー、今年はショートショートに造詣(ぞうけい)の深い井上雅彦会長により、『ショートショートなSF』(ハヤカワ文庫JA・1584円)と決まった。

 全五〇編。面白いのはデビュー順に並んでいることだ。一番手の筒井康隆から、星新一が見いだした新井素子、星新一ショートショートコンテストでデビューした江坂遊、百字小説という新たな流れを生みだした北野勇作、ジャンルクロスオーバーな活躍を見せる円城塔や宮内悠介、高山羽根子、最も注目される書き手の一人である坂崎かおる、小説家としては本書がデビューとなる岡田悠まで。五〇編のショートショートは直球もあれば変化球もある。一編読むのに一〇分もかからない。悩む暇があるならページをめくってしまえばいい。

 古来、人は星を見て空の巡りを知り、自分の居る場所を知った。星が残した言葉は、時を超えてわたしたちを見守り、導いてくれる。=朝日新聞2026年9月12日掲載