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Riverside Reading ClubがTRASMUNDOで語る、異郷に生きる人々【後編】

文:宮崎敬太、写真:有村蓮

>Riverside Reading Clubが、下高井戸の名店・TRASMUNDOで「チカーノ・ソウル」を語る【前編】はこちら

「DJ PATSATの日記 (Diary of DJ PATSAT)」

――後編では、みなさんが最近読んだ本やおすすめの本を紹介していただこうと思います。

ikm:じゃあ、まずは自分から。「DJ PATSATの日記」というZINEです。これは前回紹介したタラウマラの店長である土井さんが、2020年5月3日~7月23日までインスタグラムに投稿してた日記をまとめたものです。すごく短い期間の話ではあるんですけど、その間の行動や思索に土井さんという人間のバックボーンが見えて、俺はこのZINEは土井さんの自伝でもあると思いました。レイナルド・アレナスの『夜になるまえに』という自伝がすごく好きなんですけど、「DJ PATSATの日記」はそれと同じくらい好きです。

Lil Mercy:余談なんですけど、先日ライブで神戸に行ったので、土井さんにお会いして直接ZINEの感想を伝えたんですよ。そしたら土井さんが「マーシーくんが『日記書いたほうがいいですよ』って言ってくれたから書き始めたんですよ」って。

宮田:僕、この人と最近インスタで繋がったような気がします。違う方かな?(笑)

Lil Mercy:土井さんは大阪の東淀川という街で、完全に「街の自転車屋さん」という感じなんです。さらに本やCD、レコードと一緒に販売してる「タラウマラ」というお店をやってる方なんです。自分のレーベルのCDも置いてくれてて。タラウマラに行った時、東淀川を散歩してみたけど、何もないというか結構独特の雰囲気がある街なんですよ。タラウマラは東淀川っぽくもあるけど、同時に「なんでこんなところにこんなお店が」ってところもあって。

ikm:日記にはその街の話も出てきますよね。これは最近読んだ中でもすごく良かった。最高なのが、このZINEは本文の文章もすべてシルクスクリーンで作ってて。凄まじいですよね。人生も作品もこだわってる人の日記だと思った。これはみんな買ってください。ちなみに、土井さんには最近Riverside Reading Clubに入ってもらいました。

コルソン・ホワイトヘッド「ニッケル・ボーイズ」

Lil Mercy:前編でikmくんがブーガルーとサルサの流れで公民権運動の話をしてくれましたが、自分も最近読んだ『ニッケル・ボーイズ』で違う角度から公民権運動の影響を知ることができたので持ってきました。

――どんな話なんですか?

Lil Mercy:アメリカ南部のフロリダ州で開発工事をしていたら、身元不明の人骨がたくさん出てきたんですよ。調べてみたらそこにはかつてニッケル校という更生施設があった。そのニュースを見て自分の思い出したくない過去を紐解いていくような感じで始まっていきます。ニッケル校に相当する施設が日本にないんですが、少年院と学校の中間みたいな感じ。

主人公はこの施設に無実の罪で入れられたエルウッドという黒人です。勤勉で、おばあちゃんに教えてもらったキング牧師の演説のレコードを聞いて、その内容を信じていれば自分たちはすべてを変えることができると信じていました。だけどニッケル校はひどい施設で。白人と有色人種で房を分けられていて、有色人種の房では劣悪な暴力が常態化してた。そこでエルウッドは、ターナーという少年と出会います。彼は「うまくやれば良くない?」みたいなのらりくらりとしたタイプ。この二人の話が、現代と過去の回想を交えて進行していきます。

ikm:著者のコルソン・ホワイトヘッドという人は『フライデーブラック』を書いた人の先輩格みたいで。現代の黒人文学を代表する作家ですね。『地下鉄道』がすごく有名なんですが、自分的にはちょっと読みづらくて、数ページで挫折してしまった(笑)。でも『ニッケル・ボーイズ』は超読みやすい。

Lil Mercy:この本はDJ BISONがくれたんですよ。もともと買おうと思ってたんだけど、最近読んでない本が溜まってるからとりあえず読みたいリストに入れといた状態だったんです。でももらっちゃったから、なんとなく読み始めたらすごく読みやすくてあっという間に読んでしまった。

ikm:『地下鉄道』は、19世紀に南部の黒人を北部に逃がす「地下鉄道」という秘密組織が実在したんですけど、それを元に地下を走る鉄道があったというフィクションなんですね。

――その時代は当然地下鉄なんてないですもんね。レトロフューチャー的な世界観の小説だったと。

Lil Mercy:そうそう。『フライデーブラック』にもSFっぽい話もあったし、この人の翻訳されてない作品にはゾンビものもあったりするみたい。『ニッケル・ボーイズ』も事実を元にしたフィクションだけど、ファクトを積み重ねて物語にしてる。実際にかなり取材したようで、ニッケル校のモデルになった施設も実在してて、そこから身元不明の人骨も見つかってるんですよ。

ikm:『ニッケル・ボーイズ』はエンタメ小説としてもプロットがちゃんとしてると思った。

Lil Mercy:うん。人種による搾取をダイレクトに表現せず、文章や構成の中でうまく伝わるようにしてるんです。そこが素晴らしいと思いました。あと公民権運動がこんな少年たちにまで希望を与えていたと知ることができたのが良かったですね。この本にはラテン系の少年も出てくるんですが、彼は外作業で日焼けすると黒人房に入れられて、日焼けが冷めてくると白人房に移されるなんて描写もありました。

大城立裕「ノロエステ鉄道」

宮田:僕はすごく好きな本を持ってきました。日系人にも興味があるので、特にアカデミックがカヴァーしないような分野のことが気になるんです。

宮田信(みやた・しん)。音楽レーベル・BARRIO GOLD RECORDS/MUSIC CAMP, Inc.主宰者。2020年12月に『チカーノ・ソウル~アメリカ文化に秘められたもうひとつの音楽史』の日本語版の翻訳を担当した

――ペルーやブラジルに日系の方が多いですよね。サッカー解説で有名なセルジオ越後さんも移民した日系ブラジル人の二世です。

宮田:今日持ってきた『ノロエステ鉄道』という本は、日本から南米に移民した一世たちの話をまとめた短編集です。フィクションとなっていますが、おそらく誰かの実体験を聞き取って書いたものだと思う。脚色されてる部分もあると思うんですけど、たぶん完全な想像ではこんな話は書けないと思うんですよね。ディテールもすごいし。表題「ノロエステ鉄道」はブラジルに行った一世のおばあさんの話。昭和53年に日本人ブラジル移住70周年と記念して皇太子がブラジルに行ったんです。その時に、おばあさんを表彰したいので会場に来てくださいというやりとりを記録したものなんですけど、これは日本に居場所がなくなって異郷の地に行った人の言葉だと思ったんですよ。留学とかそういうのではない。行かざるを得なくて母国を出た人の言葉。

Lil Mercy:一世の人たちは戻ることを前提としてない形で行ってる人が多いのかなと思います。

宮田:中には故郷に錦を飾るつもりの人もいたと思うけど、実際ほとんどの方たちはそうじゃないはず。著者の大城立裕さんは沖縄を代表する作家なんですが、沖縄でも60年代までたくさんの方が移民として南米に行ってるんですよ。しかも中には、南米でも定住する場所を見つけられなくて、いまだに流浪してる方もいるんですね。

――全然知らなかったです……。

宮田:僕は一昨年に日本人の移民が初めて暮らしたペルーのカニャーテという町に実際に行ってきたんです。もともとサトウキビ畑があったそうですが、今はもう荒れ果てていました。その町に日本国旗が壁に描かれている小学校があって、壁に「アメリカ大陸に初めてできた日本人学校です」みたいなことが書かれてるんです。もうボロボロの壁画みたいな状態になっているんですが、さすがに言葉をなくしましたよ。

――そこにはもう日系人はいなかったんですか?

宮田:80年代まではたくさんいたらしいんですけど、ペルーでインフレが起きてみんな仕事を無くしてしまったようです。多くの人はリマ(ペルーの首都)に移住したけど、定住できず日本に戻って、さらにまたペルーへ行く、みたいな感じだったと聞きました。日本人が来る前に中国人もいたらしくて、町の一角には古い中国風の立派な建物があったりもするんですよ。もう誰も使ってなくて、歴史遺産として保存されてました。『ノロエステ鉄道』にはブラジル以外にも、アルゼンチン、ボリビア、ペルーの話もあります。これは『チカーノ・ソウル』にも通じるものがある。彼らの気持ちを想像する意味でも素晴らしいテキストだと思ったんです。

――それはどういうことでしょうか?

宮田:ロサンゼルスに仕入れで行った時、日系三〜四世の人と会うことがあるんですよ。話すと日本人じゃないなって感じる。でも見た目は日本人だし、おそらく周りも日本人だと思う。同じことがチカーノたちにも言える。メキシコ人からするとチカーノはメキシコ人じゃない。でもアメリカ人からは「お前はメキシカンだろ?」と言われる。『チカーノ・ソウル』に出てくる演奏者たちの多くは10代で、アメリカで生まれた二世なんですよ。きっと彼らに政治意識はない。けどそういう感覚の中で演奏活動してたという事実は、結果、政治的アクションになっていたと思う。

Lil Mercy:……ちょっとすごすぎますね。

宮田:さらに付け加えると、『チカーノ・ソウル』に出てくる若者たちは貧しいから、ベトナム戦争の時にどんどん徴兵されていくんです。純粋に音楽を愛してバンドを始めて、せっかくシングルのレコードを出すところまで漕ぎ着けたのにベトナムで亡くなってしまった、なんて話もあります。彼らはアメリカの労働力としても、兵士としても、使われた存在でした。アメリカ社会のなかで貧しいことがどれだけ悲惨であるかというファクトとして、もっと知られるべきだと思っています。実際、僕も言葉を失ってしまいましたね。のほほんとした日本人ですいません、という気持ちになりましたよ。たぶんこういった話の延長戦にあるのが、川崎、群馬、浜松のコミュニティなんですよ。

Lil Mercy:関東の中でも移動してる感じがありますよね。ブラジルやペルーの人たちのコミュニティだと群馬県太田市や栃木県小山市が有名だけど、自分の地元の埼玉県入間市にも結構いて。現地の食材を売ってる雑貨屋さんとか。

宮田:そうなんですよ。日本の中でも移動してるんです。今は神奈川県の愛川町にペルーとブラジルとドミニカ共和国の人たちがたくさん住んでます。ドミニカの人たちは技能研修生として日本に来てるらしいです。バーとかもありますよ。

Lil Mercy:東京の新宿線沿線にはアフリカ系の人たちのコミュニティもありますよね。高田馬場は都市感があるから、愛川や太田とは雰囲気が違うと思うけど、彼ら彼女らが実際住んでるのはどんな感じなんだろうって思いますね。『チカーノ・ソウル』をきっかけに掘り下げていくと、いろんな問題を考える時にすこし柔軟になれるというか。より興味を持って、というとおかしな言い方かもしれないけど、踏み込みやすくなるかなって。音楽から広がっていくというか。

宮田:考えてみると、僕らが好きで影響を受けている音楽って、やっぱり移民的なものが多いと思うんですよ。例えばイギリスにはジャマイカ移民たちが持ってきたスウィートな音楽があるし、90年代以降はロンドンではインドやパキスタンの人たちがヒップホップをやっている。そもそも東京はハイブリッドな街だし、僕ら自身もそういうものに影響を受けてると思うんです。

宇佐美まこと「夜の声を聴く」

浜崎:宮田さんは移民のような居場所がない人、居場所を見つけられない人の動きを追ってるように思えるんですよ。宮田さん自身は、いつ頃からそうなっていったのかなって。幼少期にそういう体験があったとか?

浜崎伸二(はまざき・しんじ) 東京・下高井戸のショップ・TRASMUNDOの店主。ヒップホップ、レゲエ、ソウル、パンク、ハウス、テクノ、ジャズなど独自のセレクトで音楽ファンから熱狂的に支持されている

宮田:そういう意味では、僕は東京の調布市で生まれ育ってるんですよ。近所に米軍基地があったけど、フェンスで覆われてて入れなかったんですね。中ではデカい車が走ってたりするんですよ。あと都市伝説で、「誰かが忍び込んでピストルで撃たれた」みたいのもあって(笑)。でも子供ながらにそのフェンスを越えたい好奇心がすごくあったんです。そしたら数年後、メキシコ人が(国境の)フェンスを越えてアメリカに入るという話を聞いて「俺たちと一緒なんだな」って勘違いしたんです(笑)。そこが自分の原体験かもしれない。

浜崎:なるほどね。実は自分にも居場所がないという感覚がどっかにあるんですよ。それを音楽やカルチャーに求めてるようなところがある。こういうお店をやってると、マーシーやikmくんが遊びにきてくれて、いろんな情報を共有しあうと小さな何かが生まれる。それがアンダーグラウンドカルチャーになったり、コミュニティになったり。今年(2020年)はコロナで店がめちゃくちゃヒマだったので、TRASMUNDOをコミュニティの場としてどう残していくかをすごく考えたんです。自分で自分の店をこんなふうに言うのはおこがましのかもしれないけど(笑)。

Lil Mercy:フラッと来ると必ずハマさんがいるっていうのは自分的にかなり大きいです。俺、ハマさんにメールしたことなんてほとんどないですもんね。用事がある時は直接来ちゃう。そういう意味でも、やはりTRASMUNDOは「場」ですよ。『チカーノ・ソウル』のクラウドファンディングをやる時も、ここにみんな集まっていろいろ話し合いましたもんね(笑)。

浜崎:そうそう。改めて場の重要性を感じたんだよ。マーシーが言うように、フラッと来て、偶然に良い感じに混ざって、つなげていく重要性というか。

Lil Mercy:そこにいろんな人がいて、相互作用しあってるのもデカいのかもしれないですよね。

宮田:そう。SNSの時代にあえてそういう感覚でつなげていく。本屋さんもレコード屋さんも服屋さんも、本来はコミュニケーションして買い物してたじゃないですか。今はなんでも簡単に聴けちゃうから、それは便利でもあるんだけど、コミュニケーションの中から若い人に良いものが伝わっていかないことに危機感を感じてるんです。SNSの画像だけじゃ伝わらないものを伝えたいというか。

浜崎:今回のこの取材もひとつの場なので、あえてみんなが読まなそうなのを持ってきた。宇佐美まことさんの『夜の声を聴く』という小説です。

Lil Mercy:全然知らないですね。

浜崎:店をやってるといつ人が来るかわからないって意識があるから、あんまり集中して読書できないんですよ。なので小説よりもエッセイが多かったんです。でもさっきも言った通り、2020年は特に夏がめちゃくちゃ暇だったから、小説を読んでたんですね。ミステリーとかホラーの棚に並んでる本なんだけど、俺はそうは思わなかった。『夜の声を聴く』は学校にも家庭にもなじめない一人の少年の話。その子が外に出ていくことによっていろんな人と出会い、人生とは何かを知っていく成長物語です。児童虐待や貧困がテーマになっているんですが、素晴らしかったのは弱者の気持ちがしっかりと汲み取られているということ。著者の宇佐美さんは児童関係の施設で働いてたのかな、と思わせるほどでした。あまりにも良くて泣いてしまった。

ここ1〜2年で俺らが読みそうにないラインでなんか良いのないかなと思ってずっと探してたんですよ。かなり外れが続いてたんだけど(笑)、前にホラーの棚でこの人の前作『愚者の毒』ってやつを見つけたんですよ。「なんかおどろおどろしいなあ」と思ってなんとなく買って読んだら、かなりすさまじい話で。過酷な状況で生きてる人しか出てこない。

Lil Mercy:『夜の声を聴く』もあらすじを読む限り、全然面白そうじゃないですね(笑)。

浜崎:でしょ?(笑) でも自分が触れない場所で何か面白いものはないかなと思ってさ。

ikm:最近置きにいっちゃってるんで、これからはもうちょっと挑戦します(笑)。

Lil Mercy:この本は誰かが良いって言ってくれないと手に取らないかも。

ikm:やっぱ知ってる人から聞くのが良いですよ。俺、帯文の人選で買わないことが結構あったりして。「この人が好きな本を俺は好きじゃないんじゃないかな」っていう。

浜崎:わかる。RRCは「この曲いいから聴いてみて」て感じで本を紹介するのが面白いよね。そこにすごく意味があると思うんだよな。本の話をしてても、音楽や映画、服の話も一緒についてくる。そこが大事だよ。

ikm:ちなみにこの記事を読んでTRASMUNDOに興味を持って来た人は、ハマさんに話しかけていいんですか?

浜崎:え……? 俺からすると話しかけてもらえるほうがありがたいよ。こっちから声かけるのって意外とタイミングが難しいからさ。

ikm:通ってると声かけてもらえるんですよね。

浜崎:そうそう。2〜3回来てくれるとこっちも顔を覚えるからさ。

ikm:俺も最初はそんな感じでしたよね。「この前も来てくれたよね」って。自分でZINEを作るようになったりする前から知り合いなんですよ。いつもお店を出てからハマさんとの会話を反芻しながら帰るんですけど、最寄りの下高井戸駅じゃなくて、明大前か豪徳寺まで歩くとちょうど良くてオススメです(笑)。

>Riverside Reading Clubが、下高井戸の名店・TRASMUNDOで「チカーノ・ソウル」を語る【前編】はこちら

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