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史料から社会の姿がありありと浮かぶ「日本史の宝箱」 辻浩和の新書速報!

  1. 『日本史の宝箱』 東京大学史料編纂所編 中公新書 1210円
  2. 『南北朝時代』 森茂暁著 講談社現代新書 1320円

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 日本史関係の新書が多数出た。そのうち歴史家の仕事ぶりがうかがえる2冊を紹介したい。

 (1)は明治期以来日本史研究の中枢を担う史料編纂(へんさん)所スタッフによるアンソロジー。徳川家康暗殺計画、酒宴における塩辛の重要性、江戸で頻発する爆発事故、賄賂の贈り方、密貿易の隠蔽(いんぺい)工作など、魅力的な話題が満載である。いずれも史料中のわずかな記述から、当時の社会の姿がありありと浮かびあがり、歴史学の醍醐(だいご)味を味わわせてくれる。料紙・写本・金石文といった史料の物的側面や、複製・デジタル化など保存活用の話題が多いのも同所ならではだろう。130年以上にわたり史料と向き合い続けてきた成果が、この一冊に凝縮されている。

 より本格的な歴史叙述を求める向きには(2)を薦めたい。南北朝期政治史の第一人者が、緩急の効いた文章で、複雑きわまる14世紀の政治をわかりやすく描き出す。著者によれば、南北朝期は先例や身分といった既存の価値観が崩壊し、人びとが実利を追求し始める「大転換期」である。利害をめぐって対立する人びとが南北両朝に結びつくことで、社会の分立が広域化・長期化した。この混乱を鎮め社会の再編成を果たすために、武家主導による公武統一政権が生まれたのは必然だという。注目すべきは、用いられる史料の多様さである。膨大な史料を突き合わせることで『太平記』史観からの脱却が図られる。個々の史料から時代の全体像に迫る面白さを味わってほしい。=朝日新聞2026年6月27日掲載