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「ブドウ畑の傍らで暮らす」書評 ワインを通して語る時間と土地

評者: 御厨貴 / 朝⽇新聞掲載:2026年08月22日
ブドウ畑の傍らで暮らす 著者:玉村豊男 出版社:晶文社 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784794980588
発売⽇: 2026/06/12
サイズ: 13.5×19.2cm/200p

「ブドウ畑の傍らで暮らす」 [著]玉村豊男

 玉さんのブドウとワインの本が出た。玉さんはもちろん、これまでたくさんのこの手の本を出してきた。玉さん流の文体で読者をワイン漬けにさせるものばかり。でも今度の本は何か違う。玉さんはワインについて自らの一生を振り返りつつ、世界地誌の中で、いやもっと言えば日本地誌の中でのワインの歴史と現状と展望を、かなり真剣なまなざしで書いている。
 高級レストランで高いワインをソムリエの話を聞きながら飲むのが、本来のワインのあり方ではない。宮中晩餐(ばんさん)会じゃないんだぞ。おやおや。「その土地でできるブドウでワインを造って飲む、という生活文化が存在しなかった」からなのだ、日本には、という。さらにワインが「酔っ払ってはいけない酒」であるのに、日本酒は「酔っ払わなくてはいけない酒」なのだと断言する。いや、ワインを勉強して飲んでる我々には、えっ、と真逆に見える警句が次から次へ出てくる。
 こうした玉さんの指摘は、農業と工業、投資に見合うか否かなど、政治経済史をさかのぼり資本主義のあり方に迫る。玉さんがワイナリーオーナーとなり、千曲川ワインアカデミーを推進しながらたどりついた心境は、ワイン造りはもうからず、ある意味非合理主義の固まりだということ。でも資本主義の行き詰まった今こそ、非合理の固まりのようなワイン農業に、人類が賭ける意味があるのかもしれない。
 そういいながら、玉さんは「ワイン好き」のまま、将来を見る目は実は明るい。地球温暖化はもしかしたら日本ワインに有利なのではないか。歴史を見る目も面白い。ワイン生産の「近代化」は1970年代に始まったが、今、それからの転換が求められていると。
 玉さんが描く挿絵も、これまた楽しい。ワインを通して玉さんが語ったのは「時間」と「土地」の話でもある。スケールに合わせるのではなく、スケールを変えてみたらいかが、と。
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たまむら・とよお 1945年生まれ。エッセイスト、画家、ワイナリーオーナー。著書に『料理の四面体』『食の地平線』など。