ISBN: 4000617605
発売⽇: 2026/5/1
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「ふたりの読書会」 [著]向井和美
本に救われた経験のある人は多いだろう。一字一句が体にしみこんでくるあの感覚、ページから目をあげると世界が変わって見えた瞬間を、本書を読みながら久しぶりに思い出した。
「こんな私でも参加させていただけるような読書会はないでしょうか」
2023年春、そんな手紙が翻訳家である著者に届く。差出人は服役中の無期受刑者だった。
著者はカナダの刑務所で行われている読書会を取材した翻訳書や、自身が長年参加している読書会についてのエッセイを刊行していた。それを読んで手紙をくれた受刑者は20年前に強盗殺人を犯した男性。償いとは何かを考え続ける中、ひたすら本に向き合うことで、自分の弱さや無知を自覚していったという。
彼は父親から虐待を受けていた。「あの苦しさの中、本を相棒にしていたらまったく違う人生になっていたのかもしれません」との言葉に胸を打たれた著者は、刑務所内で読書会を開く方法を探してみると返事を書き、まずは手紙による読書会を提案する。「たったふたりでも、本について語り合えばそれでもう立派な読書会の成立です」
こうして二人だけの読書会が始まった。何もかもが違う者同士が一冊の本を読み合うことで、こんなにも真摯(しんし)で深い対話が生まれることに驚かされる。著者は教え導くという立場を取らない。本を間に置いた二人は対等であり、語り合うことで著者自身も自分を発見し開示していく。そのプロセスは感動的だ。
二人の読書会は現在も続いている。そして、著者を含む関係者の努力によって、男性が服役する刑務所内での読書会が実現した。
「本というものは善人にも極悪人にも、著者のそして編集者の方々のその本への想(おも)いや熱量はまったく同じ量で届きます」「だからこそ、その本を裏切ってはいけない」。彼のそんな言葉を、本を送り出す側の人間として、忘れずにいたい。
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むかい・かずみ 翻訳家、元学校図書館司書。著書に『読書会という幸福』、訳書に『プリズン・ブック・クラブ』など。