ISBN: 9784163921327
発売⽇: 2026/08/05
サイズ: 13.7×19.3cm/296p
「永遠の記憶」 [著]東野圭吾
難事件を抱えた刑事が研究室を訪ね、天才物理学者はしぶしぶ謎解きに協力する。探偵ガリレオシリーズの定番である。だが、母となった内海刑事の苦境となれば湯川先生も今回ばかりは冷静ではいられない。
名探偵の初登場は実に鮮やかだった。小憎らしいけど、かっこいい。科学への潔いまでの信頼と愛。非論理的だから子どもは嫌いだと豪語する。最初の相棒である同窓生草薙も負けていない。偏屈学者と豪腕刑事のかけあいが楽しみだった。
だが、転機は意外に早く来た。『容疑者Xの献身』で、天才数学者の完全犯罪を迷いながら破綻(はたん)させた湯川の心の傷は深い。こんな経験をしてしまって、以前のように気軽に捜査協力など続けられるものだろうか。
著者の代表作の一つとなった傑作の次の作品の表題は『ガリレオの苦悩』。不安な気持ちがよぎったが、杞憂(きゆう)に終わった。なるほど、恩師に、君は変わったなと言われる変化はあった。だが、悪友に科学者としては優秀だが、人間性に難ありとからかわれる変人ぶりは健在だ。助教授・准教授・教授と肩書は変わっても理系探偵の頭脳の切れはその後も続く。
絶大な人気を誇る名探偵をこの世に送り出してしまった推理作家はきっと苦労されるのだろう。割り切って永遠の今を生きる設定にすれば別だが、そうでなければ、名探偵も年をとる。だからといって、クリスティの『カーテン』はいかがなものか。老いたポワロの選択は、ファンにとってはやはりつらい。
本作で、ガリレオシリーズの幕は引かれる。今からみれば、着実に伏線がはられていたのだと思う。ゆっくりとした時間の流れの中で、湯川も草薙もだいぶ丸くなった。社会も少しずつ変化した。幕引きは感動的であり、かつ論理的である。これ以外の終わり方はありえなかった。精魂込めて作り上げた物語世界に対する著者のまなざしの温かさに泣ける。
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ひがしの・けいご 1958年生まれ。作家。直木賞受賞の『容疑者Xの献身』や『秘密』『白夜行』など。7月23日逝去。