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「ハロー、ベイビー」書評 不妊治療仲間めぐる複雑な心境

評者: 吉川トリコ / 朝⽇新聞掲載:2026年09月12日
ハロー、ベイビー (新潮クレスト・ブックス) 著者:キム・ウィギョン 出版社:新潮社 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784105902094
発売⽇: 2026/06/24
サイズ: 18.8×2cm/168p

「ハロー、ベイビー」 [著]キム・ウィギョン

 三十代の終わりから四年ほど不妊治療をしていたが、残念ながら私のところに赤ちゃんはやってこなかった。以来、自分と似た境遇の人に出会うと、親近感というほどあけっぴろげではなく、もっとひそやかで、できればだれにも――その相手にすら悟られたくない、憐(あわれ)みと慈しみが入りまじった連帯意識をおぼえるようになった。
 本書は同じ不妊治療クリニックに通う六人の女性たちの群像劇だ。ある日、SNSのトークルーム「ハローベイビー」に最高齢のジョンヒョから「赤ちゃんを産んだ」というメッセージが届く。十五年間に及ぶ不妊治療の末、治療をやめると宣言し、音信不通でいたジョンヒョからの一年ぶりの報(しら)せにメンバー一同祝福の声をあげるものの、内心では嫉妬や焦りをおぼえずにいられない。
 いったいなにがそこまで彼らを追い詰めるのだろう。第一部では少子化の進む韓国の社会状況を背景に、それぞれの事情が語られる。理解のない夫たちは存在自体が希薄で、メンバーの中には一人で卵子凍結をする者もいる。流産や治療に苦しんでいるとき、近くにいて寄り添ってくれたのは「ハローベイビー」のメンバーだった。生殖にまつわる話、夫やその家族に対する愚痴など、他人には大っぴらに話せないことでもメンバーにならためらいなく話せる。その存在に支えられ、慰められているのは事実なのに、どうして心から仲間の妊娠を喜んであげられないのか。どこか突き放したようなドライな文章だからこそ、複雑な心境が痛ましいほど伝わってくる。
 第二部に入ると物語が急転し、サスペンスの様相を呈する。冒頭からかすかに漂っていたいやな予感が確信に近づいていくにつれ、どうかなにかの間違いであってほしいと祈りながら読み進めた。あなたは一人じゃないし、一人にさせはしない。最後には私も「ハローベイビー」の一員になっていた。
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Kim Eui-kyung 1978年生まれ。2014年、作家デビュー。18年、長編小説『コールセンター』で韓国・秀林(スリム)文学賞。
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小山内園子訳