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増村十七・著「進め!白鼻進」 戦争期の熱狂、無自覚な漫画家

 『進め!白鼻進』 増村十七〈著〉 小学館 770円

 時は1933年、日本が国際連盟を脱退し、小林多喜二が拷問死した年。芸術家気取りの売れない漫画家・甘神白鼻進(あまがみはくびしん)は、田河水泡の『のらくろ』を読んで衝撃を受ける。その革新的な表現形式が世界を席捲(せっけん)すると確信した彼は、『ぶちねこ四等水兵』なるパクリ作品で人生を賭けた勝負に出る。

 作家性を捨て“売れること”に全振りした白鼻進と、相棒の出版社社長による手段を選ばぬ販促・宣伝活動がえげつない。とにかく人目に触れるべく露出を増やし、炎上上等の誇大な情報で煽(あお)る。SNSこそないものの、人為的に熱狂を作り出す描写は、現代のマーケティングを戯画化したものだ。

 果たして『ぶちねこ』は彼らの思惑を超えた大ブームを巻き起こす。商業的成功を手にした白鼻進は、何かに取り憑(つ)かれたかのように描き続ける。戦争が始まると、検閲逃れのため国策に沿った表現をせっせと盛り込む。作品の力に無自覚な作家と、そんな彼を無言で見つめる妻の表情が胸苦しい。

 物語はあれよあれよと進んでいく。いささか慌ただしくはあるが、あれよあれよと戦争へ突き進んだ時代の空気にはぴったり。それはまさに今の日本の空気でもある。熱狂の果てに作家が目にした光景は、天国か地獄か。=朝日新聞2026年8月1日掲載