ページにぎっしり詰まった文字を追うのがおっくうになる夏。すがすがしく白いページに、余白たっぷりに文字列が並ぶこの詩集は目にも心の耳にも心地よい。
名端(なばた)みちるの第1詩集『鳥と追う八月』(思潮社・2530円)の冒頭を飾る表題作は、ジャズバンドのベーシストが主人公なのだろうか。技量を超えた練習曲が収められたCDのジャケットには、海面すれすれを滑空する一羽の海鳥。その鳥に導かれるように、決して止まらないように、ビートを刻んでいく演奏の描写がスリリングでみずみずしい。
後半は、会社員としてのなにげない日常。しかしどんな日常にも詩の神は宿っている。「帰り道ひとりで歩いていると、見えないなにかにぶつかって、手を嚙(か)まれた。/(中略)/丘のように横たわるそれは透明なスフィンクス。」(「透明なスフィンクス」から)
1年先輩の鈴木さんや、「花束ではなく/日差しを遮る緑の並木を手向けてくれる」(「船を下りる」から)、そんな上司たちとの日常をいとおしむ。(藤崎昭子)=朝日新聞2026年8月1日掲載