憲法への関心が高まる時代は、憲法の危機が高まっている時代かもしれない。ここで言う憲法の危機とはその理想や理念が失われつつある状況のことである。
憲法は「この国のかたち」をデザインするもので、その理想や理念には、容易に実現できないものも含まれる。法の下の平等が謳(うた)われ、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利が保障され、すべての国民が「個人として」尊重されるとあっても、いまなおそれは達成できていないだろう。
だから、政治は現実を理想に近づける義務を負い、国民は政治にそれを早くせよと求める権利をもつ。
憲法9条も同じである。ところが、9条についてだけは、理想のほうを現実に合わせようとの声が、本来その逆方向の義務を負うはずの政治から、しばしば声高に聞こえてくる。
20年前に出版された本書の中で、著者は「このごろ『この憲法は古い』と言う人がふえてきました」との危機感を示すが、同様の危機感は、近年多くの人が共有しているだろう。だからこそ、本書は増刷に増刷を重ね、今年30刷を超えた。
本書の前半は、著者が子どもたちに「これだけは読んでおいてほしい」と言う前文と9条をやさしく書き直すもので、そこで著者は、9条の精神を「どんなもめごとも……ことばの力をつくせばかならずしずまると信じる」ことと掘りあてる。
後半は、子どもたちに「これだけは伝えたい」と著者が考える憲法のエッセンスをやさしく解説したもので、そこには、著者のまっとうな憲法観が読みやすく凝縮されている。
いわさきちひろのあたたかい絵が贅沢(ぜいたく)に添えられた本書は、「よく考えぬかれたことば」を味わうのに最適な、美しい装本である。子どもと一緒に、大人にもゆっくり読んでほしい。=朝日新聞2026年8月22日掲載
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講談社・1320円。06年7月刊、33刷19万3千部。今年3月から5カ月連続重版。担当編集者は「作者は子どもにわかる言葉にこだわり、刊行に10年近くかかった。20年前の本がいま注目され、驚きと喜びをもって受け止めている」と話す。