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「大西洋前史」書評 人類史の定説に敢然と異を唱え

評者: 川出良枝 / 朝⽇新聞掲載:2026年09月12日
大西洋前史: コロンブス以前、伝説と冒険の海 著者:ジョン・ヘイウッド 出版社:河出書房新社 ジャンル:歴史

ISBN: 9784309231822
発売⽇: 2026/04/28
サイズ: 13.8×19.7cm/440p

「大西洋前史」 [著]ジョン・ヘイウッド

 1492年にコロンブスが大西洋横断に成功して、アフロ・ユーラシア大陸とアメリカ大陸とが連結され、人類史は大きく転換した。よく耳にする説明である。だが、著者は敢然と異を唱える。それ以前の16万8千年は、大西洋史における単なる脚注にすぎないのか、と。
 著者は初期中世史・海洋史に精通する歴史家。神話学・環境学・技術史を動員し、コロンブス以前の大西洋史を圧巻の絵巻物に仕立てた。
 話は先史時代から始まる。解剖学上の人類はアフリカで進化を遂げたというのが定説である。では、人類はどのようにアメリカ大陸に到達したのか。大西洋を渡ったのではない。アジアからベーリング海峡を何らかの手段で渡り、南米まで進んだというのである。
 本書の中核的な主張は、大西洋を初めて横断したのはコロンブスではない、というものだ。知る人は知る事実かもしれないが、「初」の称号を与えるべきは、スカンディナビアのノース人、なかでも海外遠征に乗り出したヴァイキングである。
 長い時間をかけて、北大西洋を横断したノース人にも驚かされるが、それが実証された経緯も面白い。この地の伝承文学(アイスランド・サガ)をもとに仮説が立てられ、否定的意見をはねのけ、ついには、大西洋をはさむ両岸の遺跡の発掘調査により、移動の事実が証明された。
 ノース人に限らず、技術が未熟な時代に大海原にこぎ出した人々をかりたてた動機は何か。たくましい冒険心か、食物・資源・入植地を得ようという貪欲(どんよく)さか。想像力という要素も重要である。11世紀初頭にイスラーム地理学者ビールーニーは、三角法を駆使して、理論上、アメリカ大陸が存在するはずだと主張したというのだ。
 最後にコロンブスも登場する。過去との連続性をおさえた上で、彼の航海術のどこが画期的だったのかをあぶりだす秀逸なしめくくりである。
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John Haywood 1957年、イギリス生まれ。ヨーロッパ中世の歴史が専門。著書に『図説 ヴァイキング時代百科事典』など。
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花田知恵訳