- 『年貢』 渡辺尚志著 中公新書 1155円
- 『原始仏教 ブッダから大乗成立へ』 清水俊史著 講談社現代新書 1100円
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給与明細を見て天引きされる額にため息をつく人は少なくないだろう。ネットでは「五公五民」の声も聞かれる。だが(1)によれば、江戸時代の負担率は意外に高くなかったらしい。裏作の麦や、出稼ぎ・日雇いなどの非農業的な収入には基本的に年貢がかからないから、五公五民といっても実際の徴収率はもっと低い。19世紀の負担率は全所得の20~30%程度という。近世村落史の泰斗である著者は、年貢の仕組みが村人のリテラシーや村内の人間関係に大きく影響したことや、年貢システムへの不満が地租改正へと結びついたことなどを描き出す。近世社会の根幹に年貢制度があったことがよくわかる。著者は、年貢を知ることで「今日の税制と社会を見つめ直すための比較基準」を手にすることができるという。その言葉に耳を傾けたい。
仏教学者による(2)は、後世に創作された仏伝を排し、弟子たちによる初期仏典の記述から、ブッダの生涯と教団の展開を跡付ける。同時代に近い史料から読み解かれるブッダの姿は筋骨隆々で、手塚治虫『ブッダ』などが描いた優男のイメージとはずいぶん異なる。著者は、宗教的秩序が動揺する時代背景を踏まえ、ブッダが対峙(たいじ)したバラモン教やジャイナ教との対比によって「ブッダの教えの革新性」を見事に示す。仏教思想の歴史的把握が本書の魅力だろう。
年貢も仏教も、我々はよく知っているつもりでいる。しかしそうしたテーマこそ、思い込みを覆された時の驚きは大きい。=朝日新聞2026年8月22日掲載